TREESURGER®️は、樹木外科医という意味で、私が作った名称です。一般的には特殊伐採と呼ばれていて、ロープワークを使って木に登り、チェーンソーの技術で木の大きさや形状に限らず、木を安全に解体するスペシャリストです。
近年、特殊伐採が注目されていることもあって、いろんな登り方の技術が確立されてきましたが、私が、イギリスに留学して樹木外科治療(Tree surgery)を学んで日本に戻ってきた20年ほど前は、この技術を使って木の剪定や伐採をしていたのは、私の知る限りでは、おそらく全国でもいなかった思います。
一番わかりやすいのが、重機が入れない場所でも木にロープを使って登り、チェーンソーで枝や幹を切って、剪定や伐採ができるという点です。
クレーン車などの重機を止めるスペースがあれば、ゴンドラに乗って、木の上にも簡単にアクセスができるので、その方が作業員は安全であり、技術的にも簡単です。
しかし、重機が入れない場所、例えば、神社の境内などで建物と建物間に位置していたり、崖の斜面に立っていたり、住宅密集地の家の庭に先祖代々の巨木があったりするような場合に、お声がかかることが多いです。
現場によっては、木の周りに家やいろんなものがある場合は、切ってそのまま下に落とすことはできません。チェーンソーで切り離される枝や幹に、ロープをあらかじめ巻いて上から吊るすようにしておきます。切断されたら、下にいるスタッフがロープを少しずつゆるめて下に下ろしていくことで、どんな場所でも安全に木を伐ることができるのです。
木の上で自分の体をあずけるのは、ロープだけです。木を切って安全に降ろすのもロープです。そういう意味では、ロープワークやチェーンソーの技術があることが大前提なのですが、同じくらい重要なことが正確で冷静な判断力を維持することです。
木の上で、自分を支える命綱、切った木を安全に下ろすロープなど、様々なロープを使っています。もし、誤って自分の命綱を切ってしまったり、命綱をかける場所を間違えると、簡単に落下してしまいます。
切った木を安全に下ろすためのロープのかけ方が甘ければ、下に落としてしまい、下にいるスタッフにケガをさせたり、下に家や物があれば、壊してしまうかもしれません。枝といっても、100kgを超えるようなものもザラにあります。そうしたトラブルが起きないように、適切なロープを使い、用途に合わせた結び方を選び、適切な場所に支点を設けるなど、何十メートルという高いところで、そうした判断を何度も行います。その一つ一つの判断を正確にしかも持続できるかどうかという点は、非常に重要です。
留学していた当時、ツリーサージャーはイギリスで危ない職業の上位に入っていました。年間に少なくない数の人が亡くなっているようで、技術が確立し、学校まであるイギリスでさえ、そのような状況です。
こうしたトラブルを少しでも回避するために、ペアリングというシステムを導入することがルールとなっています。ペアリングは、木の上で作業をするツリーサージャーと下でサポートするグランドワーカーとペアになるわけですが、グランドワーカーは木の上で作業をするツリーサージャーと同じ技量を持っていることが選定条件になります。
ただ、イギリスから帰ってきた時に、ペアを組める人はいなかったので、不測の事態に備えて、二重三重の安全策をとるようにしていました。それでも難しい場合は途中で作業を中断するくらいの気持ちで木に登っていました。
もともと、樹木の治療ができる樹の医者になりたかったので、ここ大阪府交野市にあった日本樹木保護協会で修行をさせてもらっていたんです。
職人の中でも、身軽だったこともあって、木の上部を担当することが多かったんです。木の上で作業する時は、安全ベルトをつけるんですけど、それが頼りないんです。ダブルにすればもう少し安定するかなと思ってやってみても、しっくりきません。安全性に限界を感じながら作業をしている状態でした。
もっと良いものはないかと調べる中、イギリスでロープワークだけで、安全に枝先までに到達して伐採することができる技術があって、それを教えてくれる学校があったんです。この技術を学べば日本の樹木治療に生かせるのではないかと考えました。
日本での樹木治療は、建設現場のように単管で足場を組んで行うことが多かったのですが、足場にかかる費用が樹木治療の中でもウエイトが大きかったんです。ロープワークだけで登って安全に登れるのであれば、足場を組む必要がないためコストを抑えられます。これは画期的な技術だし、これから日本にも必要な技術だと思ってイギリスのメリストウッドカレッジに留学しました。
目からウロコのことばかりでした。当時の日本の場合、木に登れるかどうかは、職人の技量にかかっていることが多かったんです。職人技というやつです。一方イギリスでは、技術を学べば、誰でも安全に木にのぼって作業をすることができるんです。体が大きく体重が重い人でも、それは同じです。
日本とイギリスの発想の違いについて、ひとつ紹介すると、気にのぼるときに、日本の職人は足袋をはきます。足裏で木の様子を感じながら登っていきます。イギリスではブーツを履きます。そのブーツにスパーと呼ばれるアイゼンのような鋭利な金属の大きな爪を土踏まずのあたりにセットします。それを木に打ち付けるように食い込ませながら、木に登って行きます。最初ブーツとスパーを見た時には、正直半信半疑でしたが、いざ試してみると、足袋より遥かに登りやすくて安全でした。
これは一例ですが、思想的な違いが、こうした道具や技術にも反映されていて、素晴らしい経験をしたと感じています。
その一方で、樹木治療を志す自分にとって、ロープとチェーンソーがあれば、どんな樹木も安全に解体できてしまう恐ろしい技術だという印象もありました。イギリスのように樹木保護の条例等がない日本で、この技術を広めてしまって良いものかどうかという葛藤を持ちつつ2003年から活動を始めました。
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